豊潤なるポエジー

多摩美術大学学長 建畠晢

ポエジーとは、つまるところ不思議さではないかと思う。飛躍や逆転、組み換えの容易には解明しがたい謎が、謎のままに私たちの目を魅するとき、不意にポエジーと称するしかない感覚が訪れるのである。それは戦慄感であったり、笑いであったり、哀しみであったり、あるいは寂寥感であったりするだろうが、どこからくるのか、その由来は伏せられている。ただいえるのは、それはなんら曖昧模糊としたものではなく、むしろ雰囲気におもねることのない明晰な感覚、イメージに対する洞察力と卓越した表現力に支えられた強度のある感覚であるということだ。  そのような意味での実に蠱惑的なポエジーを有しているという点では、小林裕児の作品は80年代の初めから今日まで一貫しているといってよい。しばしば指摘されるように1989年は、小林にとって大きな転換点ではあった。それまでのテンペラの技法による精緻に描き込まれた擬古典的な作風から、ドローイング的な要素を生かした油彩やアクリルによる自在な描写へと大胆な変貌を遂げたのである。しかし前者におけるボッティチェリの<プリマベラ>を思わせる細部の要素へのこだわりやボッシュ的な奇想にみられる濃厚なポエジーは、後者の時期にあっても変わることがない、いや見方によっては、絵筆の自由闊達な動きに従って、プリミティブな野太さやエスニックな要素までを取り込んだ、より芳醇なものへと発展的に継承されているというべきであろう。  安井賞受賞作である<夢酔>(1995年)や<空舟>(1997年)などの大作の一種アルカイックな人物表現に、そうした謎の物語性の魅力は一層如実に感じられるが、近作ではまたテンペラと油彩を併用した森などの自然の光景の描写が登場してきてもいる。今回の退職記念展の会場で、私たちはこの画家のポエジーの留まることない展開の不思議さに改めて見せられることになるに違いない。

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